とつげき東北

(書きかけ ver.0.9)

 大衆は、「自分」に不都合な事態がもたらされる原因は、唯一相手側にあるという感受性を強く持っている。
 難解なものが示されれば「本当に頭の良い人はわかりやすく書く」「簡潔に書けないのは頭が悪い証拠」と認識し、自分にとって面白くない話になれば「空気を読め」とわめき、表現の方法・形式を彼にとってちょうど良い按配になるよう強く要求するくせに、いざ自分の開示した意見や表現が攻撃されれば「あの人には何を言っても無駄」「価値観は多様」「意見を言うのは自由」「押し付けはよくない」「嫌なら見なければよい」などと言い出すのである。

 ここに共通する精神性は、彼らは世界の中心にいて、世界中のn人は自分という善意ある1人とほとんど直接向き合っている、といった感性である。なるほどテレビや書籍を閲覧するという行為は、多くの場合「1人」または家族等の「数名」によってなされることであり、その瞬間、あたかも「表現者」と「自分」との関係性は、特別な1対1であるかに錯覚させる傾向を持つ。
 だから、「自分にとって」つまらない番組や物語が現前すれば、彼らのうち一部はただちにテレビ局や出版社に対して文句を言うことになろう。あるいは、「自分にとって」不可解な、不都合な意見等を目にすれば、「この著者は良い(=自分にとって都合の良い)表現ができない人である」「○○という観点(=自分にとって都合のよい観点)が抜け落ちたまま書かれている」と感じる。「彼」ではない読者に向けた観点で表現されているという可能性を考えることさえなしに。加えて、そのような番組や書籍を選択的・能動的に見たことへの「自己責任」など一切かまわずに、である。

 彼らは「n人」の中に埋没することで、表現者としての責任を逃れながらも、しかし一方で「1人」としての意見を述べたいのだ。しかも、その「1人」の意見は、決して世間に対して責任ある波紋を投げかけてはいけないが、無視されてもいけない。「無駄な公務員を減らせ」という、誰のものでもない意見に加担するための「立派な思想」が、彼らの心の中にだけはあるのだ。
 あくまでもn人の中の1人、しかし彼らの中では「特別な1人」として自らが関わっていなければ気が済まない――ここでは、この種のまさに「大衆」の振る舞いを、「集合的個人」的なセンスとでも呼ぼう。

 インターネット等の普及により、伝統的な1×1の関係性(友人同士や個別の上司と部下の関係等)、n×1の関係性(大衆とマスメディア等の関係)に加えて、n×nの関係が急速に増加した。しかしながら、ムラ社会的な共同体的関係性がいよいよ崩壊しつつあるといった議論はひとまず置いておくとして、関係性がn×nとなったことにさえ対応できず、旧来の集合的個人の振る舞いから脱却できない者が多いのは残念なことである。
 彼らは、集合的個人に特徴的な「n人への埋没」を平気で実践する。マスメディアや政府等の「大きなもの(かつての1)」への「個人的(1の=nの)文句」の範疇にあった限り、批判や中傷も、弱小な1市民たる集合的個人がまたなにか気の狂ったような文句を言っている、というだけで済まされたが、相手がネット上等の同じく弱小な対象である場合、被害は相対的に大きくなる。自分1人でまいた流説がネット上に広まり、「nそのものの意見」にまで膨れ上がったり、相手が思ったよりも脆弱だったために、少なくとも近似的関係性において「1×1」と等しい関係となって、個人あるいは企業・事業所等への中傷等とみなされ摘発された(「1×n」の際のnに埋没しきれなかった)者も多い。
 逆に、集合的個人のもう片方の側面での「1」にとどまろうとする場合もある。n人に対して開示される場所で意見を述べておきながら、「これは個人の意見であって、特段誰からも認められなくとも良いのだ」といった諦念を正当化するという見苦しいやり口である。
 その際に用いられる名言は、既に上述したとおりである。

 幸いにして「2ちゃんねる」等においてはその構造上、「集合的個人」であり続けることがまだ可能であるが、この種の時代的なコミュニケーション形式の変化に、いかにも鈍感なまま振舞う者たちがきわめて多いのはどういったわけだろう。なぜゴミのような「日記」を開示し、分不相応にも宣伝してしまうのだろう。なぜ集合的個人が、あいもかわらず頭の悪い「私見」を垂れ流し続けようとするのだろう。
 口にしたくはないが、「民度」が低すぎるのではあるまいか。


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Last-modified: 2010-08-24 (火) 18:39:55 (2951d)