とつげき東北

 古典的な意味における権力とは、王が絶対者として君臨し、全体主義的な一つの規範の示すピラミッド型の権力を指す。このような権力的抑圧のあり方は、近代以降になってことごとく打ち破られてきた。

 近代社会の権力(規律権力)は、人々を内側から動かし、「異常でない自分」「普通である自分」というアイデンティティと目的とを作り出すことで人々を支配する。「性倒錯者」や「異常者」「狂人」が医学的見地から「病人」として区分されるようになり、監獄が誕生した。早熟な子供や残忍な夫、奇怪な趣味を持つ男たちが法廷や病院に姿を現すようになる。それも、彼ら自らが自分を「異常」であるのではないかとみなし、自らそうするようになるのである。いわば道徳的な本質から生じる<規律性>と<異常性>という基準が、人々の行動を管理する基準となったのである。

 それとともに、フーコーが生-権力と呼んだシステムが現れる。疾病、出生率、死亡率といった値によって人間を集合(住民)として管理する方法である。国家が福祉国家を目指し、国民の幸福を求めるようになると同時に、国家による戦争(国家規模での殺人)が始まった。疾病を防止し、疾病をもたらす差異を懸念し(性的異常、国民の「純血」、健康を害するとされるものへの執着等)、すなわち国民の福祉をもたらすために、差別と虐殺が起きるのである(ユダヤ人の虐殺もまさにそうであった)。福祉社会の先進国たる北欧諸国、カナダ、アメリカこそが優生学研究の先進国でもあること、そして現在、喫煙者差別がもっとも先鋭的に進みつつある国であることを思い出すとよい。 

 絶対王政→規律ある国家→福祉国家という流れで統治形態(権力の様式)が変化するとともに、権力はますます人々の細部に網の目のように行き渡り、どのような集団においてもどこからともない監視の目があてがわれ、内面化してゆくようになる。
 もはや人々を抑圧するものは外部からの一方的な搾取や怒りではなく、全体としての装置を隠蔽しながらも人々の行動様式を生活の隅々まで管理する何かなのである。

 古代の権力が個人の利益とは結びつかない形で振るわれた暴力であったのに対して、近代以降の権力はむしろ個人の利益を高めるかのように振舞う。かつての親はほとんど理由なく子供を殴ったかもしれないが、現代では子供を叱る際にも「お前のためだ」といった「福祉的」理由がそえられざるを得ず、その上家庭内暴力の防止といった形で国が関与する。家庭内暴力がよいのではない。そうではなく、かつてはどこでも当たり前に存在したできごとが、次々と国の管理下に移動するだけでなくて、そのようにすることがさも誰もの幸福につながるかのように人々に信じこませてゆく過程の全体が、国家権力として意識されていないことが問題なのである。そしてこのような支配形態の中においては、「正しくないかもしれないが、そうした方が便利だ。実際にそうだ」といった「福祉的な形式」のもとに、多くの人間が既存の「制度的なもの」に無邪気に加担してしまう。それによって差別・暴力・戦争が生ずるようになるのである(例:「喫煙は健康に悪い」という理由をいくら積み重ねても喫煙を否定する理由になりはしまいが――なるのならば、喫煙よりも「自殺」を法的に規制すべきだ――、実際にそのように事態は推移しており、喫煙者はついに「病人」と見なされるようになる)。

 近代国家が、かつては自然状態として存在したいくつもの「問題」を次から次へと掘り返し始め、その「原因」となるとされる各種の現象を統御するために「改革」を繰り返さなければならないのは、盲目的な権力の増大への意志である。
「福祉国家のすばらしさ」は一つの全体主義となって、アメリカ国民をしてイラクへの侵略戦争(大量虐殺)に賛同させるにいたる。アメリカが石油利権のために戦争をしたとしても、国民は「自由」のために戦っているのである。「愛、平和」というスローガンを掲げて街中を練り歩くことができたとしても、民主主義のシステムはこうした国家的殺人を、巧妙に編み上げられた権力の表象を食い止める術を持たない。
(解説)国家批判、社会批判

  • 論理的に、物理的に、科学的にどんなにこっちが正しくても、逆らうと痛い目を見る。 -- メラ 2006-09-14 (木) 00:11:19
  • それは恐らく昔からそうだが、現代においては論理科学がむしろ権力の手段として用いられるように変化したということが重要かと。 -- とつげき東北 2006-09-14 (木) 00:44:57
  • 私の乏しいデータによると「正しくないかもしれないが、そうした方が便利だ」程度に融通が利く人は、確実に大衆の資格を剥奪されます。大衆として生き残る術は「便利もなにも正しいに決まっているじゃないか」のようです。 -- 冶一郎 2006-09-14 (木) 02:06:36
  • 正しくない事を続けていたらいつか処罰・批難される時が来るだろうね 正しくないかもしれんが、ヤ○金は便利だ -- あ 2006-09-14 (木) 07:51:59
  • アメリカは石油利権の為にイラクを侵略した訳ではない。http://mltr.e-city.tv/faq01c.html#oil-right -- 2006-10-06 (金) 23:44:37
  • シマヲ 2012-08-21 (火) 23:41:44
    凡庸な大学の凡庸な講義の内容に等しい記事だが、一定の価値がある。
     
  • とつげき東北 2012-08-22 (水) 00:31:52
    凡庸な大学の凡庸な講義の内容を書ける人物があまりにも少ないため、簡単に記しておいた。
     
  • '''' 2014-09-05 (金) 08:44:24
    一定の価値もなさそうなコメントをしてしまうその様に笑った。
     

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Last-modified: 2014-09-05 (金) 08:44:24 (1325d)