第四なんでやねん・遠足という苦役
      

 私は「行事」が嫌いである。平和な毎日に満足しているし、すばらしく、幸せな日々が……というわけではもちろんなく、要するに何か特別に「これをやりましょう」というのが面倒くさいわけだ。性格が大雑把なのである。こんな私にとって、小学校時代の運動会や社会見学、修学旅行などは正に忌まわしい行事であった。中でもとりわけ苦役だったのが、「遠足」という行事である。
 
 「今日は楽しい遠足ですね」。先生がにこやかに語り、皆がはしゃぐ。誰しも楽しそうである。しかし私だけは──なんも楽しいことあれへんで。
なんでオレだけバス酔いで7回も吐かなあかんねん。そう、私は昔、乗り物酔いがひどかったのである。タダでさえクソ下らない「行事」なのに、これでは楽しいはずもない。二十人学級だったが、7回も吐いたというのはさすがに僕だけだ。皆が楽しげに歌を歌ったりゲームをしている間、私だけがひたすら苦しんでいたわけである。ゲロ吐いた回数の偏差値 93.59 もいっとるで! 東大も楽勝受かる偏差値やで!
 苦役はこれだけではない。私が酔う度に、先生がいつも「東北君に、キタロウぶくろ取ってあげて〜」と言うのである。どうやら「ゲゲゲのキタロウぶくろ」→「ゲゲゲ袋」→「吐くとき用のビニール袋」というギャグらしいのだが、
なんもおもろないんじゃボケ。死ね! しかもこの下らないギャグは、他の生徒に理解されなかったらしい。「先生、キタロウぶくろってなにー」と、他のガキが聞くと、先生は困った顔をして、はっきりとこう言った──「えっ? 先生そんなこと言ってないよ」すべったからって、なにウソついとんねん! 教育者失格やで!
 敏感な私だけが苦役を課せられ、何事もなかったかのように遠足は続くわけである……。
 
 無論、このような遠足にも楽しいことがないわけではない。「おやつ」を買う楽しみがある。この時代に二百円までというのには呆れるが、まぁ子供のお菓子はそんなものだろうか。遠足の前日の駄菓子屋は、小学生で満杯になるのだ。そして、限られた予算で自分のお菓子を選択する、というのがまたドキドキするのだ。
 しかし……ここでも「なんでやねん!」の叫びは絶えない。まず一人目は同じクラスだった山下へ。
 山下、なんで二百円で五円チョコ四十個買うとんねん(涙)! 浅はかすぎるで! 案の定、遠足当日にはチョコに飽きて、しきりに「ねぇ、オレのチョコとそのおやつ交換し〜へん?」などと言い回っていた。断られると、「ケチや」と文句をたれる。お前がアホなだけやろ! そうなることは、小学生のオレにさえ明晰に推察されとったわ!
 しかしアホと言えば、遠藤さんもそうであった。毎回必ず、計算を間違えて二百円を越えてしまい、レジであわてる人がいたものだが、遠藤さんの場合は
何か本質的に違うのである。レジに行くまでもなく、莫大な量のお菓子がカゴに入っているのである。欲望の赴くままにお菓子カゴにいれなや! どう見ても二百円を超えているようだった。遠藤さんに「二百円超えてるで」と教えてあげると、「そんなことないわ。あたし算数得意やねん」などと言い返されてしまった。もの凄い自信たっぷりだったので、私は引き下がったのだが、いざレジに行くと……510円にまでも達してもうとるがな! 大台乗ったで! どこまで遠足行くねん!
 
 このように、「遠足」こそが私にとって最も「なんでやねん!」な行事だったのである。大体、あの先生どもの決めゼリフはなんやねん。
 「家に帰るまでが遠足だぞ」……
お前らが勝手に言うとるだけやないか!       (完)


          
第五なんでやねんへ  なんでやねん目次へ  HPトップに戻る

<bgsound src="nandeya1~.mid" loop="infinite">